「股関節の理学療法」Q&A

「股関節の理学療法」にご参加いただいた皆さまからの質問にお答えします!

Question8

講習会を受講してからトレンデレンブルグ歩行について調べてました。そこで若年健常者を対象に上殿神経ブロックで股関節外転筋力を落としても、骨盤の沈下は起きなかったという報告を見つけました。

トレンデレンブルグ=中殿筋の筋力、というのはあまりなくて、下肢のアライメントや大殿筋上部線維が主な原因になるのかな、と解釈したんですが、石井先生はどのようにお考えでしょうか?

 

参考文献:Michael B Pohl, Karen D Kendall, Chirag Patel et al. Experimentally reduced hip-abductor muscle strength and frontal-plane biomechanics during walking. J Athl Train. 2015 Apr;50(4):385-91.

 

 

Answer

非常に興味深い研究ですね。 この研究結果には私も同意見ですね。

骨盤の側方制動に資する股関節外転筋群は、股関節の角度によって主動作筋が異なります。立脚初期の股関節が屈曲位にある際には大殿筋上部線維が主動作筋で、立脚中期の股関節が伸展0度付近にある際の主動作筋が中殿筋です。さらに、股関節が伸展して立脚後期は小殿筋が側方制動の主動作筋になります。

下に示した図は、歩行立脚期中の股関節外転筋のモーメントのグラフです。 股関節外転筋のモーメント(つまり・・・筋力)は、立脚初期と立脚後期に大きくなる二峰性の変化を示し、立脚中期にはモーメントが小さくなります。

これを先ほど述べた主動作筋との関係で考えると、歩行中の骨盤の側方制動に、中殿筋は大殿筋や小殿筋ほどには大きな筋力を発揮していないということがわかります。

トレンデレンブルグ歩行は、立脚中期に出現しているように見えますが、よくよく患者さんの歩行を観察すると、立脚初期にすでに骨盤の側方制動が図れず、トレンデレンブルグ現象が出現している場合が多い。

私も質問者さんと同意見で、多くの場合、トレンデレンブルグ歩行は、大殿筋上部線維の収縮力が低下していることで、生じるのではないかと考えています。 この論文の結果は、それを裏付けるものだと思いました。