受付中の講習会

協調制御理論 理論と臨床への応用

協調制御理論について・・・

 

 以下のような講義をなるべく簡単に分かりやすくしようと考えています。

そのうえで、じゃーこの理論が、どう臨床に応用できるのかという点について、実際のアプローチ方法についても解説します。

 

 ヒトが重力環境下で立って、歩けることの基本的なメカニズムである協調制御理論を解説します。

 

(1)水中から陸上生物への進化と四肢筋の筋配列 ~重力適応の進化史~

 4億年前のデボン紀中頃の化石資料に,陸上進出を成功させた四足動物の足跡化石が見つかりました。驚くべきことに、その足跡化石にはスリップした痕跡がまったく見られないのです。.上陸間もない生物が、コンタクトタスクと呼ばれる歩行制御上の難題をなぜ実行可能だったのか?大きな謎とされてきました。

 シーラカンスの胸鰭に二関節筋が拮抗する対として存在し,かつ両端の関節にそれぞれ拮抗単関節筋対を伴って発見されました。この3対6筋の筋配列システムは重力負荷に対して安定立位姿勢を確保し、陸上進出を可能とすることが制御論的計算および実験結果から検証されたのです。4億年前に最初に上陸を果たした生物が3対6筋の胸鰭筋配列を持っていたかどうかは不明ですが、このような足跡化石を残し得る動物の四肢リンク機構には3対6筋の筋配列システムが存在していたのではないかと考えられています。

 陸上に上陸した生物は、1Gの重力環境下にあって筋肉が受けた負荷情報が上位中枢の神経結合様式を変化させ,両生類,爬虫類,哺乳類,霊長類へと進化を支えててきたと推測されています。

 

(2)協調制御理論とは

 ヒトに限らず全ての陸上動物の四肢の筋配列の基本型は、第一関節、第二関節にそれぞれ対になる単関節筋のペアが伸展筋と屈曲筋として存在します。さらに、これに加えて第一関節と第二関節を跨ぐ二関節筋が拮抗筋のペアとして存在しています。よって四肢の第一関節と第二関節に配置されている筋群は、合計3対、6筋であることが分かります。

 このような3対6筋による筋配列は、陸上で生活する動物には必ず認められます。関節リンク機構をモータ駆動で動かすロボットと、生体の四肢の機構を比較した場合に、決定的に違う1つの特徴は、生体には2つの関節を同時に制御可能な二関節筋が存在することです。

 生体固有の二関節筋は下肢の駆動源であると同時に動力伝達機能と四肢先端の制御機能を有しているとされています。また、単関節筋と二関節筋が協調的に活動することにより,四肢先端に発生する力と剛性を独立に制御できることが明らかになっています。

 脊髄レベルの神経回路網と、その支配下の3対6筋の拮抗筋群のセットを熊本は「協調制御システム」と定義しました。生体では、このシステムの存在によって、系先端部の出力方向の制御がフィードバック情報なしに可能となり、コンタクトタスクにおける位置と剛性の制御も同時に可能となるとしています。

 

(3) 3対6筋による出力方向制御

 3対の拮抗筋から構成される6つの筋の活動は、下肢の先端部を動かす方向によって、活動する筋の組み合わせが決まっています。6つの筋の活動を組み合わせることで、系先端部を360度、全ての方向へ動かすことが可能となります。

 四肢に配備された3対6筋が、それぞれ収縮をすると系先端部をどの方向に動かすのかを視覚化するために、筋力をゴム張力に置き換えたモデルを使った実証試験の結果から、膝関節伸展単関節筋が単独で収縮した場合には、系先端部は股関節と足関節を結ぶ線の方向へ動きます。膝関節伸展二関節筋が単独で収縮すると、系先端は大腿に平行な方向に動きます。膝関節伸展単関関節筋も、二関節筋も、いずれも膝関節への作用は伸展筋として理解されていますが、この2つの筋が系先端部に及ぼす作用は明らかに違うという事がわかります。

 それでは膝の伸展単関節筋と二関節筋が同時に収縮した場合には、系先端はどの方向に動くでしょう。それぞれの筋が単独収縮した場合を合成した方向、つまりちょうど中間に動きます。このように、3対6筋の全ての筋が、それぞれ系先端部をどの方向に動かすのかが決まるため、複数筋群が同時収縮した際の系先端部の出力の方向の合成結果も同様に決まってきます。

 このように、3対6筋の筋配列は、系先端部での360度の出力方向の制御を可能にしているのです。このことをコンタクトタスクに当てはめて考察すると、荷重動作における主な出力方向は、股関節と足関節を結ぶ方向から、下腿の長軸方向の方向が多用されますので、歩行中のコンタクトタスクでは、その領域で出力をすると考えられます。その際、出力する方向がこの領域で変化した際には、膝関節伸展二関節筋と屈曲2関節筋の活動レベルのみが変化していて、その他の単関節筋の活動レベルは同じレベルの出力を維持していることから、この領域の出力方向の制御は、拮抗二関節ペアの活動の交代によって制御されていることが確認できます。

 

(4)剛性制御

 3対6筋の筋配列構造は、荷重負荷に対して極めて合理的な筋配列であると言えます。物体に外力を加えて変形しようとするとき、物体がその変形に抵抗する性質のことを剛性と呼びます。四肢に外力が作用した際、剛性が十分に高まらなければ、外力の抵抗に打ち勝ってアライメントを保持することができません。四肢の先端の剛性の分布は剛性楕円で示されます。剛性楕円の長軸方向は高剛性であり、剛性楕円の短軸方向は低剛性となります。

 剛性特性を有する筋骨格モデル先端に外力が作用したときの先端の軌道は,剛性楕円と外力の方向の交点における法線方向へ変位してしまうので、下肢の剛性と先端の位置を独立に制御しなくてはなりません。

 もし下肢に、二関節筋ペアが存在せず、股関節、膝関節を制御する単関節筋のみだったとしたら、荷重負荷によって先端の位置がずれてしまい荷重を支えることはできません。よってコンタクトタスクは解決されません。単関節筋のみの制御では、姿勢の変化に伴い剛性楕円の傾きが変化し,股関節と足関節の方向以外に前後への変位も同時に生じてしまいます。そのため、系先端の力の方向と変位の方向が一致しなくなるので、結果的に先端位置がずれてしまいます。この場合、荷重負荷を下肢で支えて立位姿勢を保持するためには、系先端の位置情報によるフィードバック制御が不可欠となります。

 一方、3対6筋が装備されたモデルでは、負荷が加わっても、先端の位置はズレることなく荷重を支えることが可能です。つまり3対6筋の筋配列であれば、フィードバック制御無しでもコンタクトタスクが解決できるということです。3対6筋が装備されていれば、負荷によって引き延ばされた筋が外力に抗している限り,剛性楕円の長軸の方向と股関節と足関節の方向が姿勢によらず常に一致します。そのため、股関節と膝関節の方向のみに変位が発生し,前後への変位は発生しません。

 よって、姿勢に応じて剛性楕円の傾きをフィードバック制御によって調節しなくとも安定した荷重対応が可能となります。拮抗する二関節筋のペアを含む3対6筋による筋配列は、荷重負荷に対し特別な上位中枢からの制御を必要とせずに、ただ単純にゴムのようにすべての筋が一定の緊張状態を保っていれば、荷重を支えることが可能となります。この単純な機構だけで、先端の位置と剛性の制御が同時に可能となり、先端がズレることなく荷重負荷に抵抗することが可能となります。



今後のスケジュールも調整中です。  coming soon...